日本の自然の美しさと盆栽(フロリアーデ・オランダ)
日本の自然の美しさと盆栽4
長短
枝、根、株立ち形、寄せ植え形などの多幹仕立てのみきなど
太細
根、枝、多幹系の幹枝など
多少
枝、葉、花、実、草木が分割する地表面積など
高低
梢、枝、根、花、実、地表、鉢など
濃淡
色彩のことで、幹肌、葉、花、実、鉢、地表など
遠近
根、幹、枝、葉、花、実など
などが「それぞれに異なりながらも、程よい均衡を保っている」
ものの方が、均等なものに比較してより、大きく見え、巨大に、無限に広がりを想わせます。
⇔程よい「ま」(空間)がある
「ま」は空でも無でもなく、眼に見えない大切な形であり、姿です。
音楽の場合は、音と音との間にある音のない時間ですが、視覚に訴える「ま」はものとものと(物と物)の間にあって、お互いをつなぐ重要な「場」であります。
「ま」の形を美しく上手に安定させることが「美」を表現するには最も重要なことで、また植物を美しく育成する上でも大切なことはいうまでもありません。
葉と葉、枝と枝、梢と梢、根と根との間には其の樹種の独特な「ま」があります。
そして同じ樹種でも良く見ると、一本一本また一枝一枝が、それぞれに異なった「ま」を持っていることが良くわかります。
それは、その樹の持つ特有の生理や性質と育つ風土や環境に依っても少しずつ違っていて、一定の爽やかな、快いリズムをもっていて、その空間は木が日光をより多く吸収し、通風をよくし、雨露を充分に受けることが出来るために、取られている「ま」であるのが良くわかります。
植物の生きるための知恵は、厳しく、あた愛らしい美しい姿を作り出しています。
日本の音楽や踊り、芝居でも、また文学、詩、書道、絵画、茶道でも建築でも”時間”や”場”の違いこそありますが、「ま」というものは余韻、余情、余裕などを残して効果をあげる為に、重要なものであります。
そしてそれは自然が手本になっています。
多くの自然や木樹や風景やそして昔からの名画を良く観察して、そこにある「ま」のあり方を知り、”省略”でり、”余白”である盆栽にとっての程よい「ま」(空間)の取り方を勉強したいものです。
⇔安定感があり八方から見て美しい
八方から良く見て、形態的にも、重量的にも安定しているものは、良いものです。
全体の重心が幹の上下の中心より、根元の部分に近づいてあり、根を大地にしっかりと八方に逞しく張り、強風などにもビクともしないような木は、安心してみていられます。
反対に、根が不自然に、片方にしかなかったり見えなかったり、また、幹が細いのに重さに耐え兼ねる程、葉や花を付けたり、下の方に枝がなくて上のほうにだけ固まっていたりするものや、根も幹も全然見えないほど葉ばかり繁っている木は、美しく見えません。
寄せ植え形や株立ち形のものは、お互いに保ち合い、つり合う安定感を考え、独立した木では根元から立ち上がりがよほどしっかりしていないと不安定に見えます。
鉢の色と大きさや、植える位置によって、安定感を持たせることも、大切なことです。
重心は下の方にあるほど安定して見えます。が、少し上の方にあっても、幹や根の強さや張り方、太さによって安定して見えるものに斜幹形や懸崖形もあり、文人風の面白い軽妙なものも優雅なものです。
以上で「美しい盆栽とは何か」ということがわかっていただけたと思いますが、美しい盆栽を具体的部分的に説明しますと
①根張り
(株から出ている根の張り方)が美しく良く、上根が多い。
②立ち上がり
(根元から神酒の元の部分)がすなおで力強い。
③幹は次第に上へ行くほど自然に細くなる。
④幹は個性のある曲線を持っている
⑤木の肌は個性的に古びた皮や色である
⑥枝元は下枝ほど太く先端から順次に枝もとの方が太い。
⑦枝は各方面に間合い良く出て長短がある。
⑧葉は木の大きさに調和した小ささで、色も艶も良い。
⑨芽が枝や幹から出やすい性質がある。
⑩花は木に調和した大きさで、端正で、気品があり、色や香りも良い、そして花期が長い
⑪実は木に調和し美しく、結実期が長く、美味ならば一層良い。
⇔樹形(木の姿)
樹形に基本の型はありません。
自然の木も決して同一の形ではなく、樹種やその固体、風土、環境などによって、一本一本が少しずつ変わった形に生育します。
ただし、樹の種類によって、大体の個性的な姿があります。
盆栽も同様です。その木の個性に適した樹形になるように、人間が助けて作ることが大切です
樹の種類によって、自生地の自生状態を参考にし、杉は杉らしく、各自の性質に適した形に仕立ててゆきます。
樹形の呼び方は次のような意味で外見上から、盆栽の用語となっています。
①直幹
幹が直立した姿。平地やなだらかな谷間や野原とか神社や寺などの、穏やかで風などの強く吹かないところに生えている杉や松などの針葉樹に多い形。
②斜幹
幹が斜めに傾いて立つ姿。傾斜地、海浜、川の土堤などで、初めに直立した直幹だったものた傾いたり、周囲の条件で幹が斜めに生育した形。
③懸崖
幹元から曲折して下の方に垂れ下がる姿。崖地(岩山や海岸の岩の急斜面)に生え、風や雨や雪に倒されて、崖の壁面などに、やっとつかまって、垂れる形。
④曲幹
幹が多方面に屈折した姿。岩の上や砂礫地、表土の浅い地に育ち、強い風雪や乾燥などによって、上に高く育つことが出来ない、枝が枯れて伸び、伸びは枯らされるなどして屈折した形。他に蟠幹(ばいかん)、模様木とも呼ばれます。
⑤捩幹
幹が捩れた姿。ざくろなどに多い
⑥サバ幹
幹が割れて、一方の樹皮だけで育つ姿、雷が幹に落ちたり、風や雪の重さで割れたりした後の形。割ることを捌くと云う。
⑦ジン付き幹
枯れ残っている樹木の芯をジンとかシャリと言い、ジンの付いている幹の姿。風の強い山や海辺、古い老木などに多く、樹脂のある針葉樹に多い形。
⑧根上り
根元が地上に高く現れた姿。高い所や斜面、崖地、川岸などで、長い間に根元の土が風や雨や水で流されて地上に露出した形。
⑨根連なり
根が連っていて二本以上の幹を出した姿。雪で下枝が押さえられて根を出した枝が幹になったり、倒れた木の枝がそれぞれに根を出して幹を立ち上がらせたり、地表に現れた根から芽を出して幹になるなどして、根が続いている幹の形
⑩筏吹き
地に倒れた幹から、多くの幹を出した筏のような姿。風倒木から出来た形
⑪石付き
石や岩の上に樹が付く姿。小さな島の上に生える木の形や岩上の木の形。根で石を抱く姿のものを石抱きともいうことがあります。
⑫吹き流し
風で吹き流されたように一方になびく姿。風の強い山の稜線や、雪が吹き付ける所とか、崖地などに多い形。
⑬株立ち
株元(根元)から多数の幹が立ち上がった姿。以前の古い幹が枯れて、新しい数本の幹が更新して立ち上がった形。ボケ、桜、シャラ、ナラ、クヌギなどに多く見られます。
⑭寄せ植え
同種または異種の草や木を、一鉢の中に寄せ合わせて植えた姿。小さな林や森の形や野山の一部分の形
⑮文人
詩歌で言えば俳句、絵画では南宋画や俳画などの文人画のようなもので、美の極限まで余剰の枝、葉、花、実をつけないようにして、簡潔な形の内に無限の風韻と詩情を表現した姿。厳しい風土の中で独り生き残っている枯れそうな老木とか、或いは森や林の中に、やっと生きているような一本の樹とか、急な崖地にやっとしがみついて、根が現われ、根か幹か判らない姿になっている木や細く優雅ない見えてはいても幹に古い美しい曲線を持っている幹などで、観賞の主体をなすのは、幹の姿の美しさであり、連想や思索であります。
⇔樹種
木や草の種類に限定はありませんが、盆栽は四季の移り変わりと全体の姿の美しさを、永年の間、観賞するものですから、育てやすいもの、寿命(生命)の長いもので、花、葉、枝、幹、立ち上がり、根張りなどの「大きさや形や色が互いに調和して盆栽に出来る」樹種や個体を「作る人の好みと技術に応じて」選ぶことが大切です。
葉、花、実などの大きすぎる樹種は、小さな盆栽として観賞するには適しません。また余り強烈な色彩の葉や花とか、変形で奇抜すぎる草樹も不向きな樹種です。
⇔盆栽の培養と整枝の要点
①潅水
鉢の土が乾いてきたときに与えます。鉢土はいつでも水分が多すぎてはいけません。
根を丈夫ににし、小根を多く張らせなくては、木が成熟しないのです。それゆえに排水がよくなるために保水力のある粒度に植え、一日に一度は丁寧に水を灌ぎます。
急いで潅水すると鉢の上から水が外に流れ落ち、土を流しますし、粒土の中心まで水分が行きわたりません。
一度たっぷりと充分に潅水したならば後は鉢土が乾いてきた時に少し与える様にします。
潅水は霧状に近い小粒の状態の水を掛けます。大粒の水は鉢土の粒土を細かくしてしまい、根が窒息する原因になり、また、鉢土を洗い流して美しさを損ねます。
また潅水する時は葉や枝や幹に付着した汚れも流し去るようにします。
鉢土が乾燥する時間や状態の時は数度潅水し乾かないときは与えずに置くことが大切です。
水分が多すぎると、樹や草は上長成長や肥大成長をして形が悪くなり成熟もしません。
②肥料
風、水、太陽、土、葉が最良の肥料です。促成栽培の野菜や園芸鉢物とは違います。
肥料を与えすぎてからしたり、急に太くしたりして、盆栽を悪くしている人がいる多いので残念です。少量の置き肥だけが無難です。置き肥は油粕8と骨粉2の割合で練り合わせ、寒い時期に良く乾燥させて保存し、必要な時期に鉢土の表面に少量ずつ置いて置きますと、潅水のたびに、水に溶解して鉢土に滲み込み、肥料となって、根から吸収されます。
肥料を与える時期や量は、樹種、樹の状態施肥の目的によって、それぞれ違います。
化学肥料や有機肥料の水肥は習熟した人だけが使用するほうが安全です。
③植え替え
● 回数は樹種や盆栽の状態によって異なります。針葉樹は2~4年に一回。広葉樹は1~3年に一回。
生育の状態により、根の張りすぎたとき、土が風化して細かくなり排水が悪くなったとき、バラ科の梅、桃、桜、ボケ、ザクロなどのように厭地現象を起こしたりして新しい土を必要とする時、など、必要に応じて植え替えます。
● 時期は春に芽の動きかけたときが最適ですが、新しい枝の元の方の葉が成熟した時や、秋の落葉後にも行うことが出来ます。
樹種の状態によっても異なり、培養している気候条件によっても違います。
● 用土は粒状で0.5~10㎜位。水に溶解しない保水力と通気性のある排水の良い土や砂を樹種や状態に適した配合をして使用します。成長させようとする樹や湿度の多い地方では大き目の粒土を多く使い、あまり成長させたくない樹や空中湿度が少ない乾燥する地方では比較的小粒の土を多く使用します。また有機質肥料としても有効であり保水力も通気性も有って排水のよい腐葉土(3~5年を経て完熟したもの)を少量に用土として混ぜ合わせて使用するのも、樹の健康上には好ましいことです。
● 鉢は少し小さめで、盆栽に調和し、盆栽を美しく見せる形や色を選びます。
鉢は盆栽にとって大切な、”住居”であり、”大地”なのですから、生育に悪い磁器のような鉢を避け、陶器でも気泡があって、急激な外界の温度の変化を根に伝えないような品質を選びます。
鉢は昔から美術品であり、古い中国製の陶磁器の鉢や、古い日本の鉢は骨董品(古美術品)として尊重され、樹と同じくらいの価値のある鉢に植えて観賞します。
木材の板の表面を火の焔で焼いて、その板で箱を作って盆栽を植えますと、盆栽は非常に良い健康状態になり、又、美しく観賞できます。
④植え替えの方法
● 盆栽の植えてある鉢の土を乾きめにします。
● 汚れた表土をピンセットやシュロブラッシで薄く除いて、根張り、立ち上がりの姿や状態を調べながら、鉢へ植える姿を考えます。植え替えごとに変化して楽しみなものです。この部分が美しく植える最大の要点です。
● 鉢に面して走る太い若根を切り、鉢底部と周囲の古土を約四分の一落します。
● 幹の真下の土と根元の周りの土を払って貫通させます。
● 根を調べ、走る根、枯れた根、古すぎる細い根を切り取ります。
● 幹下の下向になる根を切ります。これは上根を多く張らせて、立ち上がりの姿を美しくするために必要なことです。
● 植えようとする鉢の底穴に(用土が流れ出ないで、水と空気だけで通るように)防虫網を当てます。
● 鉢底に3㎜~10㎜位の粒土を2~3重ねに入れて排水をよくします。
● 荒い粒土の上に少し細い用土を入れます。
● 盆栽が鉢から自然に生えて来た様に、立ち上がる姿を美しく安定して見える様に据えます。
● 根が抜けやすい鉢とか、根を多く切って木が動く心配のある場合は、鉢底の穴から銅線で根を固定します。
● 用土の根と根の間に入れ、細い棒で突き入れたり鉢を手で横から軽くたたいたりして根と土を良く密着させます。
● 潅水は鉢底の穴から清い水が出るまで掛け続けます。
● 鉢底から濁水が出なくなったら鉢土を締めるように軽く押さえます。この押さえ具合で水分の発散や根の張り方を調和するので習熟しなければなりません。
● 再び潅水して鉢底から砕けて粉状になった土を追い出すために、汚水が見えなくなるまで水を掛けます。
● 植え替えの終わった鉢は、朝の太陽が当たり、少しは風も通り、凍るほどは寒くない所で霜や雪の当たらない所で保護します。暖地性の
ものや熱帯性の植物は適温で保護をする必要があるので注意をしてください。針葉樹などの陽樹は日光を好むので、日陰には置かないことも大切です。
ストーブなどの人工火気は急激に水分を吸収し、蒸発させて樹木を弱らせますから、空中湿度を多くしてください。
⇔整枝
天然自然樹は、厳しい自然の摂理によって規制され、環境や風土が強く整枝をします。BONSAIも同様に静止されますが、あまり大きくなったのでは困りますから、植え替えと根の整理で制限し、潅水や置き場という風土で整枝をしますが、地上部を放置していては美しい姿になりませんから、人が助けて、小さな自然らしい姿になるように整枝をします。
● 芽を摘んで、一部だけの徒長を抑制します。
● 葉刈りをして強い枝を抑制し、必要なところを元気にして枝の数を増やします。
● 枝抜きなどをして全体の通風採光を良くします。
● 上にむく強い枝を下に向けて弱くします。
● 下に向く弱い枝で必要なものは、枝先を上に向けた枯れないように元気にします。
● 匍匐性の木は下部が強く、高木性の木は上部が驚くほど強く太くなるので強く抑制し反対に弱い部分を強くするようにします。
この様に勢力の均衡を図り栄養活動の規制をするのが、整枝の要点です。整枝も樹種により、又樹勢や形態によって一本一本違います。
以上を持ちまして、主題の大要の講演を終わりますが、盆栽と言うものは、知れば知るほど、奥の深いもので、興味の尽きないものであります。そしてまた”育てる喜び”ということは、孤独な人生にとっては、又とない”生きがい”であり”生きている証拠”でもありまして、現代の人間には、絶対に欠かすことの出来ない必要条件であると思います。
この「緑を愛し、緑と共に生活する」ということの大切さを、世界中の人々に知って戴き、実行してもらい、そして未知の人たちに、”生きる喜び”を”生き甲斐”を感じ取って戴く為の使者は、ここにお集まりの皆様と私達なのであります。
我々は共通する「使命感」を持って、共に行動しようではありませんか。
地球は狭く、国と国とは近くなりました。三十年前に中国に旅したときには200時間も要したのに、現在では3時間しかかかりません。これからの世界は、国境を意識するよりも、同じ仕事をし、同じ道を歩く人たちが、相互に協力し合い、共同体となって、目的を達成して行く時代ではないかと思います。
皆様が私を必要とされることがありましたら御申しでください。
出来る限りの努力を惜しまずに”世界の緑化”に尽くしたいと存じます。
お願い
「自然盆栽」の記事に関しては無断転載禁止。
このホームページに書かれている事は、私自身の経験や 自然盆栽を作っておられた先輩からから教わったものまたは「会報」などを基に記述しました。
このホームページに掲載している内容により発生した、いかなる損害に対しても当方では一切責任を負いかねます。
また記述内容の質問なども「自然盆栽」に関しては受け付けておりません。
この記述は私個人の覚書として記述しており私個人が利用することを念頭に掲載しております。そのつもりでお読みください。
ハサミを使わないで枝を調整する
なるべくハサミを使わないで、爪だけでやったほうが厭味のない盆栽ができます。
爪で折れないほどの太い枝は、葉を抜いて枯らします。
葉を抜いてもまた吹いてきますから何回も繰り返し、物によっては三年・四年がかりで枯らし、完全に枯れてから適当なところでポキンと折ると、幹の芯まで枯れ込むことがありません。
ちょっと待つ気持ちが大事で、盆栽作りにはハサミはいらないと言い聞かせなるべく手造りが良いでしょう。
自然盆栽協会「盆栽」より